次に(B)について。
これについては監督自身が「投手のモーションが大きい」という指摘をしているように、必ずしも重盗が完全に無理な状態であったとは言えない。
また、「してもよい」というサインが示す通り、成功する可能性が高いと走者が判断した場合に限られるわけだから、何が何でも無理してでも重盗しろという話ではないので、監督の判断として誤りとは言いがたい。
1死2点差ということを考えると、犠打では得点は入らずに2死2・3塁になるので、かえって得点機は縮退する。
走者1・2塁のままでは単打で1点しか取れないので同点にも追いつけない。8回であるからこの機会に最低でも同点にしておかないと最終的な勝利は難しい。
であれば重盗で走者2・3塁にして単打で2点取って同点とする可能性が高まるほうがよい。あるいは犠飛でも1点は取れてなお走者3塁になる。これが走者1・2塁だと犠飛にならず単なる外飛で2死になるだけだ。
そういうふうに戦術を総合的に考えたら重盗という選択はじゅうぶん合理性があるのだ。
これが成功していたら、今回監督批判をしている人たちもこの判断を批判しなかったと思われる。
最後にもうひとつ、監督は選手をかばうために嘘をついているのでは、という憶測をしている人もいた。
しかしそれはまずあり得ない。走者1・2塁の場面で1塁走者が勝手な判断で2塁走者の動きを無視して盗塁を試みるようなことは考えられない。
重盗のサインが出ているのでない限りは1塁走者がスタートすることはあり得ない。したがって監督が言うとおり、サインが出ていたことはまず間違いない。
そして2塁走者の動きは、間違いなくサインを見落としていた結果である。サインを知っていたなら、自分がスタートすることで1塁走者がスタートすることはわかっているのだから、たとえ途中で無理だと思っても引き返すことはない。
引き返した、ということは重盗のサインが出ていたことを知らなかった証拠なので、その点の監督の説明にも嘘はない。
野球のルールや戦術を詳しく知らない人にはよくわからない部分も多かったのだろうが、それにしてもあまりにも安易に監督批判をしすぎると感じた。
山本浩二氏が選ばれるまで、だれにオファーしても引き受けてもらえず、なかなか決まらなかった代表監督の座。それも、この状況を見れば当たり前だと感じる。
優勝して当然、負けたら全部監督が悪い、と言われる立場。そんなものに喜んでなろうとする人はなかなかいないだろう。
これは単なる憶測でしかないが、山本浩二氏は、おそらくそこまでわかったうえで、プロ野球界や野球そのものに対する恩返しのような気持ちで覚悟のうえで引き受けたのではないかなと思っている。
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